医学部 医学科

がんの手術後もQOLを高く維持するために チームで課題解決をめざす。

船橋 公彦 教授

  • 大森病院,外科,がん
がんの手術後もQOLを高く維持するために
チームで課題解決をめざす。

直腸がんに対する究極の肛門温存手術に取り組む

19世紀の初頭から肛門近くのがんに対しては、がんとともに肛門を一緒に切除してしまう方法がとられてきました。この手術法は、再発を防ぐ点では優れていますが、肛門が失われた結果、腹部に人工肛門を造らなければならないことが患者さんにとって大きな問題になっていました。しかし、私たちが2000年から取り組んできた「括約筋間直腸切除術」であれば、これまで人工肛門が必要とされてきた患者さんにも自然肛門を温存することが可能となりました。さらに2006年からは、この方法を腹腔鏡下手術に適用することで、患者さんの体への負担も大きく軽減でき、腫瘍学的にも良好な長期成績が得られています。現在は、手術のクオリティをさらに高めるために、肛門側から全てを腹腔鏡下で行う手術法にも取り組んでいます。腹腔鏡下手術では拡大視効果によって、より緻密な手術が可能となり、排尿や性機能に重要な神経の温存をより確実にはかることができます。

チーム医療で患者さんにあった効果的な対応策を検討・実践

しかし、その一方で括約筋の切除がもたらす排便への影響の問題がクローズアップされてきています。直腸がん術後に出現する排便への影響は、患者さんの生活に大きなストレスとなり、時には心に傷を残すことがあります。患者さん一人ひとりの生き方を尊重し、がんが完治した後も高いQOLが維持できるように、外科医として取り組むべき課題は数多くあると思っています。その解決にあたっては、外科という単一の診療科の小さな枠に捕らわれることなく、いろいろな専門職の知恵や経験をもとに、チームで解決のヒントを探ることが重要と考えています。現在、私たちは、皮膚・排泄ケア認定看護師、栄養科、リハビリテーション科、薬剤師の各部署の協力を得て、術後排便に悩む患者さんを支援していくチームを立ち上げ、多方面から原因を検索し、食事や筋肉のトレーニング、薬剤効果も含めて患者さんに合った効果的な対応策を検討・実践しています。また、今後高齢者が益々増加していく中で、手術の適応を明確にしていくことも重要であり、現在は病理学教室と共同で肛門局所の神経分布や変性などを解析する基礎的研究を行うなど、括約筋間直腸切除術が外科医をはじめ広く正しく理解・適用され、その利点が最大限に生かされるように努力をしていきたいと考えています。

船橋 公彦 教授

東邦大学 医学部 医学科卒業。博士(医学)。一般・消化器外科主任教授。消化器センター外科 大腸・肛門外科部門の責任者を併任。

[研究内容]

  • 経肛門アプローチ法による完全鏡視下手術の開発
  • 括約筋間直腸切除術の術後に発生した排便障害に関する実態調査
  • 直腸がん術後の排便障害に対するチームによる支援システムの構築
  • 局所進行直腸癌に対する術前化学放射線療法
  • 外科手術創部に対する新しい創管理

[卒業研究例]

  • RIを使用した直腸癌におけるリンパ流変化の解析
  • 直腸癌のセンチネルリンパ節
  • 大腸癌の浸潤先進部組織型と悪性度の検討
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