行方 衣由紀 准教授
薬物学教室
超ハイテク顕微鏡で対象を克明に観察
『心臓の仕組み』解明に挑戦することで『心房細動』の克服法を探る
心臓は『電気』と『カルシウムイオン』で動いている!
人間の意思とは関係なく、誕生から最期のときまで拍動を続ける心臓。その動きを担っているのが電気信号『活動電位』と心筋細胞内の『カルシウムイオン』だ。そして、これらの関係に不具合が生じたとき、不整脈などの深刻な疾患が発生する。
「この研究室では循環器、主に心臓を対象とした研究に取り組んでいます。心臓自体の仕組みを理解するための研究、そして心臓病関連の治療薬の開発をめざしています」と話す行方衣由紀准教授。学部での卒業研究以来、同研究室に所属し、上司である田中光教授のもとで研究生活を続けている。 心臓がターゲットといっても、研究テーマは多岐にわたる。例えば『拍動の力の源となるものの解明』。不随意に動き続ける心臓だが、未だにそのパワーソースが何なのか明確にわかっていないのだという。また、『動物種・発達・部位の違いで生まれる、心臓の働きの相違』を究明する研究も進められている。
「子どもと大人の心臓にも違いがあります。ヒトの場合、胎児の拍動は速く、年齢を重ねるにつれて拍動はゆっくりとなっていきます。また、心房と心室は役割が違い、当然、働きや仕組みは変わってきます」
そして、こうした基礎研究の過程で何らかの法則性が発見されれば、それを活用して種疾患の理解や治療薬の開発につなげる、という流れとなるわけだ。
メインターゲットは謎多き『肺静脈心筋』
では、行方准教授自身はどんな研究に取り組んでいるのだろう。
「とくに得意とするのは『蛍光イメージング法』により生きた細胞を観察し、内部のさまざまな現象を解析していくという研究です」
蛍光イメージング法とは、蛍光プローブ(特定の分子と反応すると蛍光を発する機能性分子)を使い、ミクロの世界を可視化・画像化する技術のこと。この技術を駆使し、これまでに多くの研究実績を上げてきた行方准教授だが、昨年、「高速多光子共焦点レーザー顕微鏡」という”生きた細胞をライブで観察できる”という高性能顕微鏡を導入した。
「現在、とくに力を入れているのは肺静脈の観察と解析です。最近になり、この部位の動きや変化が心房細動の要因になっているのではないかという説が注目されてきたからです」
肺静脈は肺より左心房につながる血管で、特徴は”その血管内に心筋がめり込んでいる”こと。
一方、心房細動とは、本来は一定のリズムで活動すべき心房が無秩序に動いてしまう疾患だ。心房がプルプル震えるなかで血栓が生まれ、それが脳にまで到達すると脳梗塞を発症し、死に至ることもある。心房細動はまさに要注意の疾患なのだ。
「前述した説の骨子は、肺静脈にめり込んでいる心筋の細胞から変な信号が出て、その震えを促して心房細動が起こるのではないか、というもの。
そこで、めり込んだ心筋細胞のカルシウムイオンの使い方や心臓の働き、形状も含めて考え、『この部分が一体、何をしているのか?』を解明しようとしているのです」
そしてカルシウムイオンの変調など、肺静脈心筋の活動の謎が明らかになれば、それをストップさせる方法も見つかり、心房細動を止める薬が生まれる可能性も出てくる。
行方准教授はこの方向性で研究を進め、関連の論文をいくつか発表。また製薬会社と連携して共同研究も展開しているという。
研究者として、教育者としてそして母として―
「現在は単離した細胞を使い実験・観察を行っていますが、今後はさらに一歩進め、『組織イメージング』でアプローチしていきたいと考えています。組織をまるごとピックアップして、そこにある細胞の様子や動きを観察する、という手法です。『組織内での細胞』を見る。より俯瞰的な方法で対象を観察することにより、研究はさらに進展するはずです」
また、行方准教授は研究者のほか、所属学生たちを指導する教育者としての役割も担っている。
「常に学生たちの身近にいて、寄り添いながらリードしていく。そんな指導を心がけています」
自身は見慣れたものでも、研究の端緒についた学生たちにとってはファースト・コンタクト。そんな初体験の感動に「全力で共感してあげたい」と熱く語る。そして”母”という立場にもある。
「子育てに関しては、研究室に大変お世話になっています。その意味で、ここは女性研究者にとって理想の職場です。研究者としても教育者としても私はまだまだ”現在進行形”なので、私自身が常に高みをめざして努力する姿勢を見せることが、何事にも積極的に挑戦していく後輩を育成することにつながると考えています」
薬学部5年生 関口 可菜さん(取材当時)
行方先生は学生時代、とても優秀だったという話は有名で、研究者としての姿勢はもちろんですが、指導者としても尊敬できる方です。プライベートな部分もきめ細かくケアしてくれる一方で、親しみやすいお姉さん的な存在です。
薬学部5年生 大森 瑶乃さん(取材当時)
行方先生の印象で最も強いのは、「楽しそうに研究に取り組んでいる」ということ。期待する現象に出合えたときは「見えた!」と感激する姿を見ていると、研究が大好きなのだな、と思わされます。面倒見が良く、明るい気さくな方で、学生にとっては理想の指導者ですね。
行方准教授に聞く!
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Q1.座右の銘は?
A.『人間万事塞翁が馬』。先のことを気に病まず「今を真剣に生きよう」という意味で。
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Q2.趣味、息抜きは?
A.娘と遊ぶこと。よく公園で一緒に遊んでいます。
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Q3.東邦大生へのメッセージ
A.将来の進路については、先生方や周囲の助言を参考にしつつも、最後は自分を信じて「面白い!」と感じた道に進んで良いと思います。東邦大学で得たものをフルに活用し、さまざまな分野で活躍してほしいですね。
行方 衣由紀 准教授
千葉県出身。県立佐原高等学校卒業後、東邦大学薬学部に進学し2003年に卒業。その後同大大学院薬学研究科に進み2005年に博士前期課程を修了、2007年には日本学術振興会特別研究員・DC2(大学院博士課程在学者)に。2008年に博士後期課程を修了し、同年薬学部薬物学教室の講師に就任。2017年より准教授。