理学部 物理学科

中 竜大 准教授
素粒子物理学教室

自ら開発した『超微粒子原子核乾板』を駆使し
未知なる『暗黒物質』の正体に迫る!

素粒子物理学教室

わかっているモノは宇宙全体の5%弱
95%は「まだわからないモノ」

「非常に魅力を感じるのは『自然・生命・人間』を建学の精神としていることです。実利のみを追い求めず、こうしたものへ真摯に向き合うという理念を持つ大学。自然科学の探究をめざす私にとって最適の場だと思います」
本学への印象を、こう語るのは素粒子物理学教室の中竜大准教授。名古屋大学から移籍してきた気鋭の若手研究者。専門は素粒子宇宙物理学。研究室名に、さらに『宇宙』が加わっている点が注目ポイントだ。
「ビッグバンで始まった宇宙は現在でも膨張を続け、その過程で生まれたのが宇宙を構成する最小単位の素粒子です。つまり宇宙と素粒子は切っても切れない縁にある。大きさに50ケタくらいの違いがある、極大と極小のモノを一緒に考えていくという学問。それが素粒子宇宙物理学です」
原子中の電子や原子核を構成するクォーク、ニュートリノ、数年前に発見され大きな話題となったヒッグス粒子など、現時点で17種類の素粒子の存在が確認されている。しかし、それらをすべて合わせても宇宙全体の質量の5%にしか至らない。残りの95%は暗黒物質(ダークマター)、暗黒エネルギー(ダークエネルギー)と呼ばれる物質だ。暗黒という言葉から“怖い・不吉”といったイメージを抱くが、中准教授は笑みを浮かべながら語る。「暗黒というのは『まだわからない』という意味で使われている言葉です。その未知なる物質のうちの暗黒物質、これを実験的に検出しよう、というのが私の研究なのです」

既存の検出器では計れない
それなら自分で作ろう!

暗黒物質は我々の周りにも多数、存在していて「指をかざせば毎秒100万発くらい、指を突き抜けている計算になる」とのこと。そして衝突せず突き抜けてしまうのは「普通の物質との『相互作用』が弱い」からだという。つまり暗黒物質とは、ありふれてはいても普通の物質とは明らかに違うモノなのだ。「『暗黒物質は我々が知らない、新たな素粒子だ』という仮説のもと研究を進めています。そして、その正体を知ることと共に私が重視しているのは、それがどこから来るか、つまり『方向性』です。方向情報というのは非常に貴重な情報ですから」
今、太陽系は白鳥座の方向に向け疾走中だが、まずは「暗黒物質の“海”の中を太陽系が走っている」というイメージを持つ。すると、自転車に乗っているときのように「太陽系の走る方向から暗黒物質の“風”が吹いてくる」ことになる。その風向きが非常にユニークな情報となり、暗黒物質の探索に大きく寄与するのだ。ただ、実際に方向を探るとなると大きな困難が立ちはだかる。現在、知られている素粒子と比べ、暗黒物質はエネルギーが低く動くスピードも非常に遅いため、既存の実験技術では検出できないからだ。
「大手メーカーに相談したのですが、『これ以上基礎研究へ割くリソースがないので無理です』と言われ、それならば自分で作ろうと考え、6~7年前に開発したのが『超微粒子原子核乾板』です。これが今のところ、この分野において私が成し遂げた最大の功績と言えるでしょう」
原子核乾板とは写真フィルムの一種で、はるか以前から素粒子実験に使用されてきた検出器だ。しかし現状のそれでは中准教授の実験には使えない。暗黒物質のような「スピードの遅いモノ」を計るには、素材をさらに微粒子化する必要がある。ということで素材の配合を変えるなど化学処理を繰り返し、試行錯誤の末に作り上げたのが最強ツール『超微粒子原子核乾板』なのだ。

研究はグローバル・サイズに拡大
さらに新たな研究にも着手

現在、暗黒物質の研究は世界各地の研究者によって行われている。中准教授が推進するこの研究も世界に注目され、日本をはじめイタリア・ロシア・トルコ・韓国からなる国際共同実験プロジェクトが立ち上がり、さらなる進展を見せ始めている。
「ただ、残念ながらまだ本実験には至っていません。私が開発したデバイスを使って、『さあ暗黒物質を捕まえ、その正体に迫ろう』というところなのです。また、この研究のほか、さらに軽い暗黒物質の研究にも着手しています。さらに、検出器の中に入ってきた粒子がどんな振る舞いをするかについて、物性物理的にアプローチする研究も――」
中准教授には研究者のほかに、教育者としての活躍も期待されている。
「講義で伝えられるのは学問のごく一部。すべては教えられません。私が与えられるのは学問の目次みたいなもので、後は自分で考えて掘り下げていってほしい。とくに大学院生の場合、私は自分と対等の研究者として付き合うことにしています。先生と呼ばせず“さん”付けで呼んでもらう、といった具合に。これは大学院生以上になれば知識や技能を持ち、それを磨く時間もある。私自身がそこから学ぶべきことも多く刺激を得たいと思っているので、学生にはある程度自由度を持って学問を追求してほしいというメッセージでもあるのです」
自らの研究だけでなく、学生に求めるレベルもかなり“欲張り”なようだ。

中竜大准教授に聞く!

中 竜大 准教授
  • Q1.座右の銘は?

    A.常に“自己否定”することを心がけること。

  • Q2.趣味、息抜きは?

    A.家族と出かける。異分野の研究者との交流、運動など。

  • Q3.東邦大生へのメッセージ

    A.在学中は、周囲のことを意識しすぎて丸くならず、“とんがった”まま成長してほしい。何かやりたいことがあって入学してきたなら「なぜ自分はここに来たのか」を常に考えつつ大学生活を送ってもらいたい。それがないなら、東邦大学を「自分の原点を見つける」場所にしてほしいですね。

中 竜大 准教授

中 竜大 准教授

1983年、北海道苫小牧市生まれ。立命館慶祥高等学校卒業後、立命館大学理工学部物理科学科へ進学。同大学卒業後、名古屋大学大学院理学研究科素粒子宇宙物理学専攻に進み2011年、博士号(理学)を取得(2008~2011年、日本学術振興特別研究員(DC1))。同年、名古屋大学高等研究員の特任助教に就任。2016年に名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構・現象解析研究センターの特任助教に。2019年、東邦大学理学部物理学科に講師として着任。2023年より准教授。