新薬の開発にも貢献できる分子認識の追究
生体内や人工の合成で起こる化学反応は、すべて分子と分子が認識し合うことから始まります。これを「分子認識」と呼びます。分子認識は、それぞれの分子の立体的な形と、分子と分子の間に働く相互作用の両方によって起こります。そのメカニズムを調べ、さらにどういう分子をつくれば、分子認識が上手に起きるかを知ることが、私たちのテーマの一つです。薬が効くのも、副作用も、分子認識の差によるもの。ですから、どのような形の分子が、どのような相互作用を起こすかを知ることは、薬学の 研究にとても大切なのです。実験は、さまざまな化合物を合成し、その分子の形と分子の間に働く相互作用について系統的に調べることが中心です。形と相互作用の情報がたくさん集まれば、こういう機能がほしいときは、こういう構造を合成すれば良いということが辞書をひくようにわかります。どのような構造を合成すれば標的に効くのかもわかるようになり、新薬の開発にも貢献できる成果が得られています。
構造式を三次元的に捉えることで薬剤師としての能力も高まる
仮説を立て、結果を予測していても、思い通りにならないのが研究です。そして、そんなところに新しい発見が隠れていることも研究の奥の深さです。また、分子認識の研究は、薬品の構造式から、なにと相互作用しやすいかを推し測る力を養ってくれます。処方せんの添付文書から薬のリスクがわかることは、医師や看護師にない専門性を発揮することにもつながります。薬剤師が研究者の意識をもつことにより、新薬や副作用などに対しても、薬剤師にしかできない対応が可能になるでしょう。