健康科学部 看護学部

障がい者が健康を維持しながら安心して暮らせる社会づくりを

小板橋 恵美子 教授

  • コミュニティヘルス看護領域
障がい者が健康を維持しながら安心して暮らせる社会づくりを
小板橋教授の専門は「住居学」と「公衆衛生看護学」。主な研究課題は「居住支援」「家庭看護」「介護予防」である。
小板橋教授は看護師免許取得後、短大の保健師課程で学んだ。短大卒業後は保健所で保健師としての実務経験を積み、精神保健福祉センターで精神障がい者の社会復帰を支援する部署に勤務した。
「障がい者が社会復帰をする際、住まいの問題が非常に大きな壁であることを実感しました。たとえば、バリアフリーの問題があります。トイレやお風呂だけでなく、部屋の中にも段差があり、車いすを使う方には暮らしにくい環境だからです」
障がい者にとって安心して暮らせる住まいのあり方とは何か。この課題に関心を抱いた小板橋教授は医療施設を退職し、日本女子大学大学院家政学研究科住居学専攻に進んだ。そこでは、肢体不自由で車いすを使っている人が、トイレなどの空間を家族とどのように共有すれば快適に過ごせるかなど住まいのあり方について研究を行い、障がい者の方の住まいをいくつも調査したという。
その後、東京大学先端科学技術研究センター工学系研究科先端学際工学専攻(博士課程)へ進学。ここでは、バリアフリー研究者である福島智教授の教えを受けた。福島教授は世界で初めて盲ろう者(視覚と聴覚の両方に障がいをもつ人)で常勤の大学教員になったことで知られている。
「福島教授のもとで、住まい確保の問題を研究しました。今ではかなり改善されていますが、当時は障がい者に対するあからさまな入居拒否などの差別があったのです。さらに、マンションを購入しようとしたら『この地区の価値が下がる』といって他の購入者から反対されたケースがあると知った時は衝撃でした。
アパートなどの賃貸住宅に関しては、バリアフリーにするなど、部屋を改造されるのではないかという不安から貸してもらえないというケースも見受けられました」
こうした経歴をもつ小板橋教授が東邦大学健康科学部看護学科で教えているのが「公衆衛生看護学」の関連科目である。
「公衆衛生看護学では、疾病の予防や健康の維持増進に関することを学びます。私のなかで、この公衆衛生学は住居学と深い関わりがあります。住まいにスロープをつけるなど環境を整えることによって、障がい者のハンディキャップがハンディキャップでなくなり、健康を維持できるからです」
住居学を研究すると、住まいにはその国の歴史や文化、習慣が大きく反映されていることがわかるという。
「日本には靴を脱いでから家に入るという生活様式があります。外の泥や埃を室内に入れないために玄関には段差があります。
また、欧米をはじめとする多くの国々では、寝室や居間などの空間が壁で仕切られています。一方、日本家屋ではふすまや障子で仕切られているため、ここにも段差が生まれてしまうのです。こうした段差が住まいの中で車いす使用者の移動を困難にしています。
しかし、日本の文化や生活様式を否定するのは良いことではありません。これらを大切にしつつ、バリアフリーの環境を整えていくことがこれからの日本の課題だと思います。
また、日本では個人資産である住居は、『自助努力で得るものだ』という考え方が一般的です。経済的な条件が整えば、快適な居住空間を手に入れることができます。今では住まいを確保する社会的な環境が整ってきてはいますが、経済面での問題は残っていますし、住み続けることへの支援も必要です。障がい者が暮らしやすい住居を得たり、現在の住まいをバリアフリーに変えるには多大なコストがかかります。
高齢化社会も見据えて、最初からバリアフリー設計の住まいを増やしていったり、障がい者のための住居改善に多くの社会的な支援が得られたりすることが理想です。
さらに、障がい者やそのご家族が住みやすい環境を得るには、住民の理解や協力も必要です。
本学の皆さんと公衆衛生看護学を学び、健康について考えていくなかで、これからの重要性にも気づき、障がいの有無にかかわらず、人々が健康を維持・増進しながら安心して暮らせる社会づくりに貢献してもらえたら、非常にうれしく思います」