健康科学部 看護学部

災害支援や国際支援の経験から得た医療従事者としての心構えを次世代に“橋渡し”する

尾立 篤子 教授

  • トランスレーショナル看護領域
災害支援や国際支援の経験から得た医療従事者としての心構えを次世代に“橋渡し”する
トランスレーショナルとは、本来「Bench to Bedside」(基礎から臨床への橋渡し)を指し、健康科学部では、「知識・技術の橋渡し・連携」との意味で用いている。
「トランスレーショナル看護領域は、他の看護専門領域の基盤として位置付けられています。担当する『健康科学概論』『看護学概論』は本学科の〝入口〟の科目にあたり、次の分野や領域へ橋渡しをする重要な役割を担っています」
 そう語るのは、元自衛隊看護官として臨床実践や災害派遣活動経験が豊富な尾立篤子教授だ。現在、学生たちに向けて、活動を通して得た医療従事者としての基本的心構えを教えている。
「私が自衛隊看護官として活動したのは、直近では東日本大震災です。そこでは、自己犠牲を払いながらも、献身的に働く支援者の姿がありました。しかし、危機的状況下での医療・看護の質保証、さらに人間の安全保障について研究してきた私にとって、その光景に違和感を抱きました」
 報道で美談にされがちな自己犠牲も厭わない献身的な支援活動の陰で、心身にダメージを受けた支援者たちの存在があったのだ。
「私自身が災害派遣現場で得た教訓や研究の知見は、教育として次世代に伝えていかなければなりません。それも一つのトランスレーショナルです。
 フィリピンの無医村で、多国籍医療チームの一員として国際支援に携わった時のことです。大事なことは〝支援をしてあげる〟ではなく〝住民が自分たちの力で健康を維持できるようになること〟であり、支援側の自己満足で終わってはなりません。その無医村には30人態勢で入り、1日当たり千人近い住民の医療支援にあたりました。高温多湿の過酷な環境下で多くの隊員が体力を消耗していくなか、最後まで活動が続けられたのは男性の隊長と、最年長の私だけでした。
 災害支援においても瓦礫でけがをすれば、たちまち支援者から被支援者に立場が変わり、チームの一員として役割が果たせなくなります。学生には医療従事者として自身の健康管理は必須であり、危機的状況下であってもメンタルを安定に保ち続け、支援後はひと休みしたらまた職場に復帰できる強靭さの意義を伝えています。それは私の専門職としての姿勢であり、教育者としての信念につながっています」
 入学して1年後、大学1年生が記したリアクションペーパーには、看護に対するイメージの変化が見られるようだ。
「看護専門職の厳しさを理解しようとしています。今後は学生が関心を寄せている災害ボランティア活動についても一緒に学んでいきたいと思っています」