看護学部 看護学科

精神の健康維持に貢献しながら依存症からの回復を支援する

伊藤 桂子 教授 / 後藤 喜広 講師

  • 精神看護,アルコール依存症
精神の健康維持に貢献しながら依存症からの回復を支援する
「アディクション(依存症)問題からの回復とその支援に関すること、カウンセリング技術に関すること」を研究する伊藤桂子教授は、国立病院機構久里浜医療センター(横須賀市)のアルコール依存症治療専門病棟に看護師として12年間勤務。その後、看護師を養成する教育にも力を注いできた。心理カウンセラーも務め、公認心理師の資格を持つ。
「精神看護には、精神の健康を維持する精神保健と、精神疾患を持った人を看護する精神科看護の2分野があります。現在、コロナ禍や自然災害、多様な社会状況によってストレスを抱える人が増えており、こころの健康を維持する支援が注目されています。
 精神看護では、こころの健康問題から発生する精神疾患を扱っています。なかでも私の研究対象はアルコール依存症です。お酒を飲み始めてからアルコール依存症になるまでには、約10年かかることがこれまでの研究から明らかになりました。ですから若い人にとっては依存症よりも、急性アルコール中毒等のアルコール関連問題が心配です。
 そこで私の研究室では、これからお酒を飲み始める若い年代に向けて、適度にお酒を飲むにはどうしたらよいのかを啓蒙する活動を行っています。
 たとえば『お酒を飲めない体質の人に勧めない』『3杯目からはソフトドリンクにする』『アルコールの吸収を緩やかにするため飲酒前にチーズを食べる』『具合が悪くなった人がいたら救急車を呼ぶ』などです。お酒を飲み始める時期に、お酒との付き合い方を学んでおけば、依存症になるリスクを抑えることができると考えます」
 一方、伊藤教授は依存症の背景にある日本人の飲酒に対する風潮やイメージについても指摘する。
「日本には『お酒が強い人は仕事もできる』いう幻想があります。飲みすぎて体調を崩したり依存症になったりすると、『お酒に負けた』『気持ちが弱いからだ』という見方をされてしまいます。これまでお酒が飲めることを周囲から称賛されていたのに、アルコール依存症になったとたんに批難されてしまうわけです。アルコール依存症の患者さんは、こうした偏見と向き合いながら、お酒を断たなければなりません。これは非常に辛いことです。過度のストレスから再びお酒を飲みたくなるスイッチが入ってしまいます」
 そこで伊藤教授の研究室では、アルコール依存症になった人たちの回復支援の一つとして、心理療法を活用したアプリの開発も進めている。スマートフォンなどのデバイスを用い、ストレスを解消することで飲酒したくなる感情をコントールするのだ。
 さらに、東邦大学医療センター大森病院の「リソースナース」と呼ばれる専門・認定看護師とともにパンフレットを制作。同病院に入院するアルコールに関する問題を抱えた患者に配布している。このパンフレットには、アルコール依存症の悩みを抱える人が支え合う自助グループ「断酒会」や「AA(Alcoholics Anonymous)」の情報 も掲載されている。
 伊藤教授は国立病院機構久里浜医療センターに勤務していた頃から現在まで、地域で生活する依存症者の回復の様子を知りたいという思いから、「断酒会」や「AA」の会合に積極的に参加している。
「こうした自助グループでの交流によって、回復していくアルコール依存症の方たちから、私は自分との向き合い方や心の整え方を学ばせていただきました。こうした体験を通して、私自身も人間的に成長できたと感じています」
 そう振り返る伊藤教授は現在、オンラインによる「スーパーバイザリー精神科事例検討会」を、看護師や公認心理師、精神保健福祉士を集めて月1回主催。精神科での患者や家族との関わり方、対象理解、多職種との連携などについて討議し、学び合っている。
「かつて精神疾患は、あまり良いイメージで捉えられていませんでした。しかし、最近では若い人たちの理解が深まり、精神疾患の問題に興味を持つ人たちも多くなってきています。そのため、本学の看護学部から精神看護科への就職を希望する学生も増えてきました。喜ばしいことです。その活躍に大いに期待しています」
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