薬学部 薬学科

坂田 健 教授
薬品物理化学教室

量子化学や計算化学を駆使し
『分子触媒を使った化学反応』について検証

薬学部 薬品物理化学教室

優れた先輩と同じ学科で研究者としての研鑽を積む

まずは研究者としての原点について語ってくれた。「もともと私は薬学部でなく工学部の化学系の出身です。お世話になった学科には、その昔、ノーベル化学賞受賞者の福井謙一先生がいらっしゃり、今年度、同じ賞を受賞された吉野彰先生も学ばれました。基礎研究をとても重視した雰囲気でした」
学生時代から深く関わってきたのは量子化学や計算化学などの、いわゆる理論化学だ。ちなみに量子化学とは、物理分野の量子力学をベースにして分子の化学結合や物性がどうなっているかを明らかにしていく研究領域。計算化学とはコンピュータなどを活用した計算により、理論化学の問題を取り扱う実践的な学問だ。
「量子化学が主に注目するのは電子の振る舞いですが、私自身は『電子状態の変化を通して、化学反応がどう起こるか明らかにする』という研究に長く携わってきました。そのうち、とくにターゲットを絞って研究してきたのが『触媒反応』です」
触媒とは、化学反応において自身は変化しないが反応の速度を変化させる物質のこと。化学反応は自然界の至る所――人体の中でも常時、発生しており、そのプロセスの中でさまざまな触媒が関与している。人体の場合は『酵素』がそれに当たり、坂田教授の研究と実践的な薬学は、このあたりでリンクしてくるだろう。
物質が化学反応を起こすためには、その物質はいったん遷移状態(活性化状態ともいう)になる必要があり、それを起こすための活性化エネルギーに影響を与えるのが触媒だ。触媒を関与させると、活性化エネルギーが低下し反応が起こりやすくなるのだという。

期待度大の研究
『分子触媒でアンモニアを分解』に触媒反応の検証で貢献

では触媒が介在すると、なぜ活性化エネルギーがダウンするのだろうか。「高校の教科書などでは、化学反応の中で『触媒自体は変化しない』と説明されています。でも、実際には変化しているのです」
触媒反応では、反応物は触媒と結合し『反応中間体』という別の化合物となる。この中間体の形成と分解が活性化エネルギーの低い反応経路で進行するため、反応が進みやすくなる、というわけだ。そして反応後は再び、触媒と生成物は分離し元の状態に戻る。つまり触媒は、反応の前後では同じ状態だが、途中では変化しているのだ。
「私はこの触媒反応のうち、とくに『分子触媒』、金属錯体(金属イオンに配位子と呼ばれる分子やイオンが結合したもの)のようなものを触媒として使う化学反応に焦点を絞り、研究を続けてきました。この分野は野依良治先生や根岸英一先生、鈴木章先生(すべてノーベル化学賞受賞者)などを輩出した日本が、非常に強い研究領域なのです」
この種のさまざまな研究に挑んできた坂田教授。その最新の研究成果が今年発表された『分子触媒でアンモニアを分解』という研究だ。10年以上ともに活動を続けてきた東京大学のグループとの共同研究だという。
「反応自体はグループ内の研究者が発見し、私自身は反応機構について検討する形で関与しました。実際に使用した分子触媒はルテニウムという遷移金属の錯体。遷移金属はそれにどんなものがくっつくかで反応が複雑に変化するので、検証するのに手間がかかるのです」
アンモニア分子を常温常圧下で、分子触媒を使って活性化する、という研究はこれが史上初とのこと。アンモニアを簡単に分解できれば、有用なエネルギーキャリア(化学エネルギーを貯蔵、運搬する際の媒体となる化合物)としての可能性が見出せる。この研究は、例えばアンモニア燃料電池の開発などに寄与することを期待されているという。

今後は学生と共に新たな研究にチャレンジしていきたい!

坂田教授はこの研究全体の一部分を担い、研究の今後を視野に入れると、その内容は重要度をさらに増す。化学反応性をさらにあげたいというとき、それがどのように進行しているか、なぜ起こる際の活性化エネルギーがそのレベルなのかなど、反応の理論的検証が必要不可欠となるからだ。
「この研究においては『電子とプロトンを取り出す』など、無機化学寄りの研究に触れました。これまで有機化学関連の研究が多かった私ですが、これを契機に無機化学にまで目を向けるなど、今後は研究のフィールドをさらに広げたいと考えています。ただ、私の研究のキーワードは、あくまでも化学反応。この姿勢に変化はありません」
本学の建学の精神は『自然・生命・人間』。ではこれに関わる研究、また所属する学部が専門とする薬学に関連する研究などについてはどうだろうか。
「当然のことながら、それも視野に入れています。自然の中で常時、起こっている化学反応すべてが私の興味・関心の対象です。もちろん人体の中で発生している反応も含めて。例えば体内で働く触媒、酵素に関する研究。これに取り組んでいる方もいらっしゃいますが、私自身はこれまでやってきませんでした。もしこの分野で非常に面白いテーマが見つかれば、ぜひ挑戦してみたいですね」
学生と共に研究への努力を続け、記事中に登場した高名な研究者たちと肩を並べる研究業績を上げられる日が待ち遠しい。

坂田 健 教授に聞く!

坂田 健 教授
  • Q1.学生への指導方針は?

    A. 研究に関しては、ある程度厳しくしています。やるときはやるという感じですね。それ以外のことではフランクに、フレンドリーに接するというスタンスで臨みたいと思います。

  • Q2.研究活動に取り組む意義

    A. 研究に興味を持ったならば、どんどんその道を突き進んでいってもらいたい。そして、そうでない場合でも、研究に携わった経験は、その後の人生において貴重な糧になると私は考えます。仮説を立て、実際にやってみて、ダメなら問題点を発見する、あるいは仮説を立て直して再挑戦する。そして成功すれば、その成果を広くプレゼンテーションする必要も出てきます。こうした場面は社会活動を行うなかで頻繁に出てくるでしょう。研究を経験する、ということは社会での活動について学ぶことと同義なのです。

  • Q3.東邦大生へのメッセージ

    A. 現在は物理や物理化学の講義で接する程度で、あまり密接な関わりはありませんが、総じて素直で真面目という印象ですね。ただ、少し“のどか”すぎる感じがします。活動の舞台がのどかな習志野キャンパスということもあるのでしょう。でも、習志野キャンパスは図書館をはじめ非常に施設・設備が整っており、素晴らしい学習・研究環境です。このメリットをフルに活用し、自らの学びの質を高めていってほしいですね。

坂田 健 教授

坂田 健 教授

1973年、群馬県生まれ。埼玉県立熊谷高等学校を卒業後、京都大学工学部石油科学科に進学。同大学大学院工学研究科(分子工学専攻)に進み博士号を取得。2000年、助手として星薬科大学に着任し講師を経て2010年、同大学の准教授に昇進。その間、早稲田大学や九州大学の非常勤講師も務めた。2018年4月、東邦大学薬学部に教授として移籍。現在に至る。